海野十三

「行くか」とミルキ閣下が訊いた。 「行きましょう」とアサリ女史が言下にこたえた。 「ではその扉に突進しよう」 「ええ、それでは」  どんな目的の下に扉に突進するか、それさえ今は二人にわかっていないようであった。ただ殉国者の意気に燃え、自らかけた号令に服して、ミルキ国最後の二人は鉄扉に向って敢然とぶつかっていった。  その刹那、二人は黄色い火花に全身を包まれたと感じた。それが最後だった。二人は崖から飛んだように意識を失った――その瞬間にこの部屋は、百年もたった墓場のような静けさに還っていった。